DOAC(直接作用型経口抗凝固薬)と静脈血栓塞栓症

 DOAC(直接作用型経口抗凝固薬)は現在4種類ありますがトロンビン阻害薬(ダビガトラン)を除いた静脈血栓塞栓症(VTE)にも適応をもつ3種類のⅩa阻害薬DOACを取り上げます。実際の状況は分かりませんが心房細動に伴う血栓が脳に飛んで起こる動脈系の脳梗塞利用例が多いと思っているのですが今回は深部静脈血栓症(DVT)血栓塞栓症(PE)関連になります。

1)血液の凝固系と線溶系の非常に簡単な解説                   

 本題に入る前に血液の凝固系と線溶系について簡単に復習したいと思います。血液には血液を固める凝固系因子と固まった血液を溶かす線溶系因子があります。凝固系因子としては各種凝固因子、フィブリン等が、線溶系因子としてはアンチトロンビン、ヘパリン、プラスミン等があります。通常は線溶系が優位に働き小さなフィブリンの塊(血栓)があれば溶かしてしまいます。しかし何らかの原因で部分的に凝固系が優位になり血栓が大きくなると線溶系の力も及ばなくなり血栓塞栓症へと進展してしまいます。一般に血流の早い動脈系の傷は血小板の働きが先行した後に凝固因子が作用し最終的にフィブリンが形成され傷を覆い止血が完成します。この時余分なフィブリンはプラスミンによって溶解除去されます。しかしフィブリン塊が過剰になり残存すると血栓となります。一方の血流の緩やかな静脈系の傷は凝固因子系が優位に働きフィブリンが傷を覆います。余分なフィブリン塊はプラスミンにより溶解除去されますがここでもプラスミンの働き以上に凝固系が過剰に作用すると血栓となります。

2)静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症と肺血栓塞栓症)に適応をもつDOAC         

 静脈は特に下肢では血圧が低く10mmHg程度とされ、重力に逆らって上行する必要があるため周囲の筋肉の力や逆流防止の弁が必要になります。やがて右心室の収縮で血圧も上昇してきますが静脈内には全血量の約64%を含むため静脈は容量血管とも呼ばれています。その血液が貯留しやすい静脈血管に何らかの影響が生じて血液凝固系が血液線溶系より勝るようになると血栓が生じやすくなります。特に下肢静脈に血栓ができると毛細血管の流れが悪くなり間質液が増加し浮腫の原因になります(本ニュース552号、553号)。また血栓を放置しておくと血栓が剥がれて飛び静脈から心臓を通して肺へ達して肺血栓塞栓症を引き起こし重度になると酸素交換が出来なくなり致死的にもなります。

 それらの症状に適応をもつ薬が血液凝固因子の一つXaを直接阻害する以下の薬になります。

成分名(先発名)

静脈血栓塞栓用

心房細動によるもの

リバーロキサバン(イグザレルト)

1日30mg分2を3週間、

以後1日15mg分1

1日15mg分1

アモキサバン(エリキュース)

1日20mg分2を1週間、以後1日10mg分2

1日10mg分2

エドキサバン(リクシアナ)

1日60mg分1(体重60kg超)

1日60mg分1(同左)

3)静脈血栓塞栓用で投与初期の用量が多い理由は?                

 リバーロキサバンとアモキサバンはそれぞれ投与初期の3週間、1週間は維持量の2倍量が投与されています。山本雄一郎著「薬局で使える実践薬学237p(日経BP社2017年)、以下資料」によると静脈血栓塞栓症では凝固系が亢進しており“過凝固”状態になっているため、1日量を2倍にして血中濃度の底上げをして極力血栓生成防止にしているとの説明があります。次のサイトの2ページ目の図は

https://www.adachipas.com/wadai/PAS554.pdf

リバーロキサバンの半減期を7.1時間とした時の血中濃度シミュレーションを示しています。左側は1回15mgを1日2回投与した図で、投与後1日半で定常状態に達し、その時の最低血中濃度はそれなりの抗凝固活性を保つレベルになっていると思われ、これが静脈血栓塞栓症での過凝固状態を抑える効果につながっていると考えられます。ただ維持量の倍量投与ではより出血の副作用が増えるので初期投与期間中は出血のリスクにはより注意が必要です。リバーロキサバンでは過凝固状態が治まってきだした3週間後に維持量の半量に切り替えます。図の右側が3週間後に1日1回15mgに切り替えた維持量の図です。最高血中濃度は定常状態の最高血中濃度の約75%程度ですが抗凝固作用は維持できていそうです。しかし1日1回ですから最低血中濃度付近では抗凝固作用は期待できないレベル(赤の四角で囲った部分)にまで下がっているようです。DOACの特徴として半減期が10時間程度の薬が多いのですが1日のうち抗凝固作用の無い血中濃度の時間帯があるとされワーファリンより出血の副作用リスクが低い根拠にもなっています。

4)しかし血中濃度が下がっても臨床効果がある理由とは              

 前図右側のようにリバーロキサバンは維持量の1日1回では投与後14時間ほど経過すると薬効が無いようなレベルまで血中濃度が低くなっているにも関わらず十分な臨床効果が確認されています。資料では投与後間もない時間帯はリバーロキサバンの強い抗凝固作用が発揮されており、その間に体内にある線溶系因子が温存されリバーロキサバンの血中濃度が少なくなった時に温存されていた線溶系因子が作用して血栓形成抑制を持続させるという説が紹介されています。

5)DOACはいったんできた血栓を溶かせるか?                  

 ある循環器内科医師によるとDOAC自体の血栓溶解作用は弱いと語っていました。それでも「効能又は効果」では「静脈血栓治療及び再発抑制」とありますから「治療=血栓溶解」と考えてもよさそうです。静脈血栓の存在時は凝固系が優勢ですがそれに対抗すべく線溶系も亢進して疲弊していると考えられます。その状態の時にDOACを投与すると凝固系が抑制され線溶系が4)項のように温存されるはずです。いくつかある線溶系物質の中でアンチトロンビンやヘパリンはトロンビンの作用を抑制して新たなフィブリン生成、つまり血栓生成を抑制すると考えられますが、それらにはいったんできた血栓(フィブリン塊)を溶解する力はなさそうです。線溶系の中でフィブリンを溶解してくれるのはプラスミンになります。これは組織プラスミノゲンアクチベーター(tPA)によりプラスミノゲンから生成される物質になります。このプラスミンの反応系も凝固系優勢の中で疲弊していると考えるとプラスミンはDOAC投与時の凝固系が抑制されている間であれば凝固系に邪魔されずに疲弊しているとは言えフィブリン塊を緩やかに溶解できると考えられます。これは前述した医師の言葉と矛盾しないと思います。間接的にですが血栓を緩やかに溶解するDOACによる静脈血栓治療はじっくり時間をかければ血栓の消失にも期待できそうです。一方で下肢静脈にできた血栓がDOAC治療によって緩くなり剥がれて肺に飛ぶ可能性もあるのではないでしょうか?適応症と矛盾しますがDOAC治療中は出血傾向の副作用の確認はもちろんですが、急な息切れ・胸痛・咳などの肺血栓塞栓症の症状確認も必要ではないでしょうか?またその際には疑義照会対象と思いますが、皆さんはどう思われますか?         (終わり)